モメラスを踏まぬこと

天文学者の夫と1年限定のチューリッヒ生活

モメラスを踏まぬこと

バレエ旅 in パリ・ロンドン | 悲劇の火災から10ヶ月。パリ・ノートルダム大聖堂の今

何度か書いていますが、私がどこかを旅行するとき、そのタイミング何らかの(自分にとってはかなり重要な)観光スポットが、いろいろな事情で閉鎖されている確率がかなり高いです(笑)。予め承知している場合もあれば、行ってみて初めて知ってショックを受けることもあります。それでも…プラハの天文時計がブルーシートで覆われていても、ザンクトガレンの図書館が改修中でもブタペストのオペラ座に足場がかかっていても、ウィーンの楽譜店が2回連続臨時休業でも、ロンドンのビッグベンが工事中(←new!)でも、「いつかまた来よう」とポジティブに考えることにしています。

 

でも、昨年の4月、ノートルダム大聖堂の火災のニュースを聞いたときには、仕事もレッスンも手に付かないくらいにショックを受けました。

www.bbc.coms

小学生の時に、ヴィクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」を原作とするディズニーアニメ「ノートルダムの鐘」のビデオを観て以来、それが自分の中のBest of ディズニーとなり、アニメ版(日・英)とブロードウェイ版サウンドトラックをオケパート含めて(笑)ぜんぶ歌えるくらいには大好きな作品。劇団四季での上演が決まったときには狂喜乱舞でした。自分たちの結婚式はバラ窓のステンドグラスが綺麗なチャペルを選んで、入場や披露宴のBGMもサウンドトラックを編曲。正直、パリはノートルダム大聖堂にさえ行ければ他はどうでもいいと思っていました。※行ってみたらめちゃくちゃ楽しかったのでこの認識は大幅修正されました

そんな熱い思い入れのある場所が、一夜にして無残な姿に変わり果てた事実を、しばらく受け入れられずにいました。「スイス移住を待たずもっと早く旅行していればよかった」と、意味のない後悔の念を心のどこかに抱えながら、改修にかかる年数を様々に推測する記事を読む日々が続きました。そして気づけば火災から10ヶ月。ノートルダム大聖堂とはまったく別のきっかけでパリへと足を運んだのでした。

 

 

遠くから眺めてみる

現在はノートルダム大聖堂の建物内に入ることはできませんが、周辺から様子を伺うことはできます。パリのホテルへ到着したのが、日本から来る友人たちとの合流時間の1時間半前だったので、気合いで行きました。

ノートルダム大聖堂の周辺にはいくつもメトロの駅があるので、どこからでもアクセスはしやすいと思います。私は9区からメトロを乗り継いで、パリ市庁舎(Hôtel de Ville)駅で下車。セーヌ川を挟んで北側からノートルダム大聖堂に近づいていきました。

方向音痴が災いしてかなり遠回りしてしまいましたが、パリ市庁舎前の広い通りを歩くことができました。

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パリ市庁舎

ちなみに駅に着いたときからBGMはこれ(笑)


The Bells Of Notre Dame

ザ・ベルズ・オブ・ノートルダム

ザ・ベルズ・オブ・ノートルダム

  • Patrick Page, Jeremy Stolle, ウィリアム・マイケルズ, The Hunchback of Notre Dame Ensemble & The Hunchback of Notre Dame Choir
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

このあたりの建物や街並みもとても好きな感じだったのですが、時間が迫っていたので素通りしてしまいました。

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夕焼けが綺麗でした

市庁舎の端に着く前に、思った以上に唐突にその姿を見つけました。本物だ…

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左に見える細長い建物が双塔部分

建物の特に消失が激しかった部分は、手前の建物に隠れていてまだ見えません。このときから半泣き気味で(笑)足早に向かいました。アルコル橋(Pont d'Arcole)でセーヌ川を渡って、大聖堂のあるシテ島へ。

できる限り近づいてみる

物語の主人公の名前を冠したレストランを通り過ぎます。

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カジモド!

ついに、映画で何度も何度も観た大聖堂の現実の姿を目の当たりにしました。

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ここに来ることを20年近く夢見てきて、ついにそれが叶いました。今までにたくさんの国を訪れて美しい建物や芸術にたくさん感動してきましたが、ここだけは期待の桁が違いました。ついに実現してこんなに幸せなことは無いはずなのに、日の暮れた曇り空にそびえるノートルダム大聖堂バリケード越しに見上げて、やり場のない悲しみでいっぱいになりました。私がどんなに願っても、技術がどれだけ発展していても、世界中から復旧支援が集まっても、前の姿を見ることは二度と叶わないのだと、当たり前の現実を改めて突きつけられた気がしました。

周囲を散策して見えたもの

悲しみに打ちひしがれたアジア人が何十分も立ち尽くしていると周りの人を心配させてしまうので(笑)、なんとか気を奮い立たせて周辺を歩いてみることに。

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真下から見ると迫力がすごい

双塔部分は一見無傷のように見えますが、中が黒く煤けています。ここから左手方向に、建物に沿って通りが続いています。こんな状態でもひと目見ようと、その通りは観光客で賑わっています。

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足場やクレーンがかかっていて作業真っ最中

側廊部分は足場がかかっている箇所が多く、隙間からもとの姿を想像することしかできません。ところどころ新しい木材が建てつけられている箇所もあり、「結構修復が進んでいるね」と話している人もいました。

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ステンドグラスは焼け落ちています

こちらにはヒロインの名前のレストラン。

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エスメラルダ!

そして、建物を囲むバリケードには、被害の状況と修復の道のりを伝えるパネルが展示されていて、皆がじっくりと読んでいました。

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時間が無くて私はほとんど素通りしてしまったのですが、写真と文章からは、ノートルダム大聖堂に思いを寄せるパリ市民と、世界中の人たちの「悲しみに暮れている場合じゃない」という力強い意志のようなものを感じました。読みながら涙している人もいましたが、道行く人たちからは確かに希望も感じたのです。

小雨が降り出した帰り道、悲しみと希望と安堵が入り混じった複雑な心境でノートルダム橋を歩いていると、セーヌ川にかかる橋や周辺の建物が一斉にライトアップされはじめました。

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ライトアップされるシャンジュ橋

ちょうど18時になるタイミング(といっても17:57くらい笑)でした。薄暗い街並みが突然暖かい光に彩られて、なんだか自分を励ましてくれているような気がしました。このとき初めて、「パリってなんて美しいんだろう」と心から感じたのでした。

セーヌ川から

後日、友人たちと乗ったセーヌ川のクルーズ船からも、ノートルダム大聖堂の姿を見ることができました。

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初日に見られなかった南側の面の様子を全体的に眺めることができます。

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途中、大聖堂の脇に立つ大きなクレーンで作業している人の姿が。思わず心のなかで「ありがとうありがとうめっちゃありがとうございます」と唱えていました。

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復旧作業を進めている作業員に感謝

実は、4月の火災前の大聖堂は、「ノートルダム・ド・パリ」の舞台となっている15世紀から続く姿ではなく、19世紀に発表されたユゴーの作品をきっかけに、廃墟同然の状態から当初の姿になるべく近づける形で復旧されたものです。長い歴史を持つ建造物が、時代とともに時には破壊され、変化していくのは避けられない現実。だからこそ、ノートルダム大聖堂の再建を願う人々の思いの強さは、19世紀当時も今も変わらないと思います。

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そしてしっかり宣伝(笑)。


Making of "The Hunchback of Notre Dame" Studio Cast Recording