モメラスを踏まぬこと

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バレエ旅 in パリ・ロンドン | 来日公演も間近!パリ・オペラ座バレエの「ジゼル」鑑賞

オペラ・ガルニエツアーに続くバレエ旅の最大イベント、「ガルニエでバレエ鑑賞」!実現までは(主に精神的に)長い道のりがありました。

 

 

ストライキが続くパリ

バレエ旅が始まる直前にパリの交通機関ストライキはほぼ解消したものの、パリ・オペラ座のダンサーやスタッフによる年金改革への抵抗は続いており、1月末から公演が始まった「ジゼル」も初回のみ上演されて以降はキャンセルという状況。

さすがフランス、と一言で片付けてしまえばそれまでなのですが、バレエの身体への負担やダンサーというキャリアの過酷さを少しでも身近に感じていると、彼らが現政権の年金改革を頑に拒絶する心情も理解できる気がしてきます。

biz-journal.jp時代の変化に応じて社会保障の形が変わっていくのはやむを得ないと思いますが、この400年近く続く年金システムが、世界最高峰と言われる芸術作品を生み出し続けるパリ・オペラ座バレエの支えになっていることは確かです。ダンサーたちの働きかけは応援したいと思いつつ、でも公演は観たいという複雑な心境でこの旅を迎えていました。

祈りの結末

「ジゼル」は、19世紀半ばにこのパリ・オペラ座バレエによって初演されたロマンティックバレエの代表作。それをオペラ・ガルニエで観ることは、バレエを愛してやまない私たちにとってとても大きな意味を持ちます。

午前中の見学ツアーで舞台裏を巡った際、大道具がセットされているから上演されるはずだとか、舞台で誰も練習していないからキャンセルかもとか、期待と不安の憶測が飛び交っていました。

その日の昼過ぎの回はキャンセルされ、気持ちが落ち着かないままパリ散策をして過ごし、開演の2時間前。ついに情報が入ってきました。上演決定!!その場にいた友人と抱き合って喜びました(笑)

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念願!

ついに開演!

午前中に初めて足を踏み入れたオペラ・ガルニエへ再び。1階席なのでみんなでそれなりにドレスアップして気持ちを高めます。(実際はそこまでドレスコードは厳しくない印象でした。ジーンズやスニーカーなどカジュアルすぎる服装さえ避ければ良さそうです)

エントランスでチケットを見せた後、大階段付近でプログラムを販売しています。フランス語が12€、英語版は24€(!)。終演後も購入できます。

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プログラムは写真も充実しています

クロークにコートを預けた後は各々がロビーでシャンパンなどを楽しんでいました。

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パリオペジゼルの見どころ:1幕

ここからパリ・オペラ座バレエが演じる「ジゼル」の魅力(※個人の感想)をあらすじに触れながら紹介します。

あらすじはこちら

大道具が美しい

1幕の舞台となるのは、ジゼルが暮らす山間の村。


Giselle by Jean Coralli / Jules Perrot (Dorothée Gilbert & Mathieu Ganio)

ジゼルやヒラリオンが出入りする茅葺き屋根の家々が丁寧に作り込まれています。前の方やサイドの席だと部屋の奥の雰囲気まで伺えるので注目です。

健気なジゼルがかわいい

心臓が弱く、母親から踊るのを止められているジゼルですが、恋するアルブレヒトと一緒にいるとついつい身体が動いてしまいます。母親の目を盗んでアルブレヒトへの想いを寄せる様子は愛らしく、(結末を知っていると)同時に切なくもあります。ここでのパ・ド・ドゥとそれぞれのヴァリエーションはこの作品の大きな見どころの一つです。

真実を知ったジゼルの狂気

あらすじを読んでいただければわかりますが、爽やかなイケメン青年アルブレヒトの正体は、貴族の身分と婚約者バチルド姫の存在を隠して病弱なジゼルの恋心を弄ぶという絵に描いたようなクズ男です。1幕の終盤、ジゼルとアルブレヒトとバチルド姫の三者ご対面(笑)という最悪な形で、ジゼルはその真実を知ることとなります。その瞬間から彼女の心臓が鼓動を止めるまでの間、今までの愛らしい姿とは似ても似つかない青白い顔とボサボサの髪を振り乱して踊り狂う様子は衝撃的です。

パリオペジゼルの見どころ:2幕

2幕の舞台上にあるのは大きな十字架。ジゼルのお墓です。ジゼル含め、この後登場する女性はすべて死後の姿(ウィリ)です。

ミルタのパドブレ

超ピンポイントな場面指定ですが(笑)、目を離せない見どころです。2幕冒頭、ウィリの女王ミルタの登場シーン。


Giselle by Jean Coralli / Jules Perrot (Hannah O'Neill)

「パ・ド・ブレ」とは、動画の32秒あたりに出てくる動きのことです(動画は登場シーンとは別の場面です)。簡単そうに見えますが、上半身を動かさずに細かい足さばきで移動するのが実は結構大変なのです。

この日の公演のミルタ役も、そして来日公演の予定キャストも、動画と同じオニール八菜さん。彼女のパ・ド・ブレは、まるでベルトコンベアーに運ばれているかのように(例えが悪い…笑)優雅で美しいものでした。

幻想的なコール・ド・バレエ

私が「ジゼル」という作品の中で特に好きなのが、2幕のコール・ド・バレエ(群舞)のシーンです。真っ白なロマンチックチュチュを纏ったウィリたちが切なげな表情で、静かに力強く踊ります。


Giselle - Act 2, the willis - Adolphe Adam (Opéra de Paris)

※動画は3年前のバージョンです

コール・ド・バレエの醍醐味は、30人近いダンサーたちの息のあった踊り。正直今回は、連日のストライキの影響で本調子ではないのかも…?と感じる場面もありました。が、幻想的な美しいシーンであることは間違いありません。

男たちへの制裁(笑)

ジゼルのお墓参りに来たクズ男は、冷酷なミルタによって文字通り死ぬほど踊らされます。どんなにクズでも、演じるダンサーの技術は最高。男性ダンサーならではの超絶技巧をたっぷり観られると同時に、ジゼルやバチルド姫を裏切ったクズ男が疲弊してズタボロになっていく姿にちょっとスッキリします(酷)。

ただ、この作品で最もかわいそうなのは、もう一人ジゼルに思いを馳せていた男性、ヒラリオン。彼はアルブレヒトの真実に気づきジゼルに警告をしていたのに相手にされず、ジゼルの死を悼んで真っ先にお墓参りに来たのにウィリたちに踊り殺され(??)ます。理不尽すぎてびっくりしますが、彼がウィリに振り回されながら踊るタイトルも素晴らしいので注目です。

 

 

2幕が始まるやいなや泣き始める友人もいて(笑)、終演後はみんな興奮状態で感動を共有していました。いろいろな懸念材料はありますが、この感動を日本公演でもぜひ届けてほしいと願ってやみません。